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    座談会/開発秘話

川崎重工業(株)モーターサイクル&エンジンカンパニー、技術本部第一設計部所属

松本 孝史 MATSUMOTO TAKAFUMI

設計での陣頭指揮をとった。

川崎重工業(株)モーターサイクル&エンジンカンパニー、技術本部デザイン部所属

松村 典和 MATSUMURA NORIKAZU

本プロジェクトでは製品外観の監修を担当。当時の設計図のクリーニングおよび精査の作業も行った。

川崎重工業(株)モーターサイクル&エンジンカンパニー、サプライチェーン本部 生産技術部 鋳造技術課所属

鈴木 理博 SUZUKI MASAHIRO

多くのモデルの鋳造を担当してきたが、空冷四気筒モデルの鋳造は今回初めて手がける。

川崎重工業(株)モーターサイクル&エンジンカンパニー、サプライチェーン本部 生産技術部 表面処理技術課所属

中村 郁太 NAKAMURA IKUTA

塗装を担当。プロジェクトにあたり、当時を知る塗装職人に相談をするなどの情報収集を行い、シリンダーヘッドの電着塗装を発案。

(株)ケイテック、デジタル事業推進部所属

岩田 亮 IWATA RYO

普段は様々なデジタルコンテンツの企画を担当する。本プロジェクトで当時の手書き図面から3Dモデリングを行なった。

(株)ケイテック、デジタルコンテンツ制作部所属

西沢 良 NISHIZAWA RYO

本プロジェクトを事業として成立させるために奔走した一人。Zへの造詣の深さと、製造、技術などに対する豊富な知識と経験で様々なハードルをクリアさせた。

川崎重工業(株)モーターサイクル&エンジンカンパニー、企画本部 生産企画部所属

戸邊 潤二 TOBE JUNJI

本プロジェクトの全体とりまとめ役。生産部門との橋渡し役として活躍。

株式会社テクニカ所属

高田 雅也 TAKADA MASAYA

金型の製作や加工全般を担当。川崎重工業のシリンダーヘッドのサプライヤーとして多くの実績を持つ。

三陽工業株式会社所属

柏原 健一 KASHIHARA KENICHI

シリンダーヘッドの表情を創るフィンなどの研磨を担当。当時の風合いを出すために、職人らとともに研鑽を重ねた。

西沢:
なにが大変だったって、まずは設計図面の解読ですね(笑)。普通に考えると昔の図面をスキャンすればいいと思われるかもしれないけれど、そうじゃないんです。
松本:
古文書じゃないけれど、まずは図面の数値や書かれていることを見える、読めるようにするところから始まったんです。
松村:
数字の6とか8とか9とか読みにくかった(笑)。あと、この図面を書いた方の字のクセを理解するところも…、本当に手間がかかった。
戸邊:
吸排気ポートは現在、3次元で設計されていますが、この当時の図面は2次元で断片的にしか表していないので、出来上がった結果を見て、「ああ、こうなるか」って確認するというやり方ですから。本当に難しい。
松本:
昔の書き方やね、コレ。私が新入社員のころはこの図面のような描き方をしてましたよ、そういえば。
松村:
それと図面のクリーニングにも苦労しましたね。設計図の背面にある方眼のラインを除去するところが最初ですよね。これだけでも3週間(笑)さらに、文字と線の整合性をとるのにもう3週間くらい(笑)。途方もない作業でした。
インタビュアー:
そうやって解読された図面を基に、3次元に起こしたのが岩田さんですよね。
岩田:
はい。ただ、僕が入社した20年前はすでにCADで製図を行なっていましたし、ちょうどそのころに2Dから3Dに移行しようとしていた時期。なので、僕自身、手描きの図面からモデリングするという経験は実はあまりないんです。
松本:
そうか、そうだよね。
岩田:
手書き図面なので3Dに起こしたらうまく合わないところも出るだろうな、と思っていたら、バチっと合うんです。平面で、かつ図面が何枚にもまたがっているのに、隅々まで、そして裏のほうまでしっかりと整合性が取れている。当時の設計者は凄いな!と思いました。
松村:
頭の中では全て辻褄が合っていて、それを平面の設計図に落とし込んでいたんでしょうね、きっと。
戸邊:
当時のシリンダーヘッドと今回作ったものとでは、フィンの厚みが違うんですよね。

プロジェクト用に新たに作られたシリンダーヘッドの金型。

西沢:
図面の数値通りに作ると、少しだけ薄くなるんです。
松本:
これは鋳造の技術が進んだおかげですね。
戸邊:
当時の設計者が目指したカタチが、約半世紀経って実現させたんだよね。
西沢:
先輩方が頭の中で描いたシリンダーヘッドはこれなんですね。
松本:
フィンを弾いてみると綺麗な音が鳴るよね。このプロジェクトではやはり鋳造技術がキモかな。

鈴木:
シリンダーヘッドのように中空形状を持つ複雑な製品は「低圧鋳造法」で製造するのが昔から一般的なため、製法としては目新しくはありませんが、内製で培ってきた技術と経験が今回のプロジェクトでは生かされています。
それによって、薄いフィン形状を図面通りの形にできたこと、製品自体の品質が向上しているということが再販版の特徴です。

砂中子とバルブシートがセットされた状態。ポートのような中空形状やその他形状は、一般的には砂中子(写真茶色部)と呼ばれる砂で成形された部品を金型にセットし、鋳造した後、最終的に除去することでかたち作られます。

戸邊:
素材の密度が高いから、製品としての信頼性も高まっていると。
松本:
バルブシートに関しても、なるべく当時に近い材質にして、現代主流の圧入ではなく、オリジナルと同じく鋳造に手間のかかる鋳込みにしたのはちょっとアピールしておきたい。
戸邊:
いまだと圧入が多いですもんね。オリジナルを追求した密かなこだわりです。
インタビュアー:
塗装もいろいろとあったと聞いています。
中村:
いまでも空冷エンジンの塗装はしているのですが、見ての通りこのシリンダーヘッドはとても冷却フィンが深い。つまり塗装は難しい部類になります。実はZ2/Z1のシリンダーを当時塗っていた方がまだ現場にいまして、色々と話を聞いたり、相談をさせてもらいました。
インタビュアー:
おお、そうなんですね。
中村:
黒色の冷却フィンはスケてしまっていたようなので、その対策として、下塗りにフレームなどで使用する電着塗装を施しました。これは黒の塗料に浸漬するやり方で、奥まったところも綺麗に塗装することができます。ただ普通はエンジンブロックを電着塗装することはないので、凹凸部に溜まった電着塗料の抜き方の検討や、耐熱性の性能確認などに苦労しました。

Zが持つエレガントなデザインとマッチするしっとりとした質感を得るため下地処理は様々な工法・条件によるサンプルを製作のうえ量産機種とは異なる亜鉛ショットブラストを採用。また、黒塗装シリンダーヘッドは、当時は塗装ムラのあった上面部冷却フィンの塗装品質改善のため、新たに電着塗装工程を追加し品質向上を図った。

戸邊:
黒塗装は下地づくりにもこだわったよね。他の量産機種と同様のステンレスショットブラスト*1じゃなくて、亜鉛ショットブラストにして、Zらしいしっとりとした黒色が出せるように。
松村:
昔のZの塗料のノリとか、艶の出方は独特。現代の商品とは表情が違う。これは亜鉛ではないと再現できなかったんです。
鈴木:
実際のところ、生産工程のことを考えるとステンレスショットブラストの方が効率的で、亜鉛だと少し?いや結構手間がかかる(笑)。つまり効率よりも質を選択したんです。
松村:
自分のZも含め、オリジナル塗装状態のものを何台も確認しましたが、レストアして再塗装されたものは塗膜が厚くなってしまっていたり、サンドブラストされているので平滑化されて艶を通り越して、テカリが出てしまっている。でも、オリジナルのZは鋳肌の上に塗料が乗っているだけなので、艶加減が独特。
インタビュアー:
生粋のZ乗りである松村さんから見て、満足度はいかがですか。
松村:
自分で言うのもなんですけど、バッチリだと思いますよ(笑)
一同:
お買い上げありがとうございます!(笑)
松本:
あとはフィンの仕上げですよ。三陽工業さんには頑張ってもらいました。
柏原:
ありがとうございます。最初「当時の風合いで」と聞きまして、情報収集からテストまで結構時間をかけました。通常であれば機械で完結するのが主流なのですが、最後の仕上げは端から端まで一方向に一本の筋を通すように、完全に手作業にしています。
中村:
え、これって仕上げにストレートサンダー使ってないんですか。

一方向に一筋のラインが出るように、仕上げは全て職人の手作業。均一な仕上がりとするため、サンドペーパーの取り替え頻度も管理されている。

柏原:
はい、仕上げは手作業です!ストレートサンダーを使うと目が一本じゃなくなってしまうんです。ですので、最後はペーパーを手で当てて仕上げています。
戸邊:
二つと同じものがない、と。
柏原:
そうですね。サンドペーパーの取り替え頻度なども計算に入れて磨いてます。
松村:
クオリティ管理も凄いですが、職人さんの作業センスが素晴らしいんです。手作業があるから温もりがある。
インタビュアー:
切削などの機械加工を担当したテクニカさんとしては、どんな部分が印象に残っていますか。

製作過程で難関のひとつだったのが、カムシャフトの受け部分。

高田:
面の加工は難しかったですね。特に、カムシャフトを抑えるキャップベアリングの軸側の平面を出すのに苦労しました。
松本:
本当はもっと肉厚を増した方がいいとは思ったのですけど、そこはオリジナル形状にこだわろうと思いまして…。
高田:
ワーク座、クランプ座を押さえただけで歪みが出るので、それも計算に入れて平面を出さなくてはいけなかった。
松本:
よくよく考えてみると、カムシャフトを受けるのが一本あたり4つのジャーナルしかない。普通このスパンだと、もう2箇所欲しくなるけど、これを成立させてしまっている。これも実は凄いことだと思う。
戸邊:
ちなみに、キャップベアリングは番号の刻印まで忠実に再現しているのも、こだわりだよね。
松本:
普通であれば、番号の刻印を工夫して型を共通化するよね。型費が上がっちゃうもん。でも今回はみなさんの意見が強くて、オリジナルと同じく型を4つ造って、4個それぞれに刻印しました。

*1ショットブラスト:粒体の投射材を素材に衝突させることで、素材表面の研削や表面の加工を行う手法のこと。

インタビュアー:
逆に、オリジナルとは変えているところってありますか。
松本:
ありますよ。タコメーターギアのボスのところなんですが、この部分は経年劣化でオイルが漏れることがある。ここはボス部を袋状にすることでケアしてあります。
インタビュアー:
なるほど。
松本:
あと、元々薄くてエッジが立っているところは、後々割れの原因になる可能性があるので、今回僅かに肉を盛ったりはしていますね。
西沢:
当時の先輩方が潰しきれなかったであろう小さな弱点は、形状の変化を最小限に抑える範囲で手直ししているんです。このプロジェクトは量産車の開発とは全く異なり、このあたりの匙加減も難しかった。
松本:
ひとつのパーツだけに集中して設計することは本当に珍しい。その分、こだわり抜いてますよ。
インタビュアー:
みなさんの熱意というか、プロジェクトの推進力が凄かったように感じます。これはやはり、Z2/Z1だからですかね。
松本:
通常の量産開発だと渋るようなケースも、みんな平気で「やりますよ」、「できますよ」と言ってくれる。製造部、鋳造技術課、表面処理技術課のみんな。
中村:
それはもう、みなさんの「当時のものを再現したい」という思いがとても強かったので…、こちらもなんとかしたいと思いました。
松本:
僕らの年代にとっては憧れのバイクですからね、空冷のZシリーズは。それこそ、大槻さん*2、稲村さん*3たちのような大先輩が作り上げたものを、改めて自分が作り上げることができるというのは嬉しいじゃないですか。
岩田:
怖さもありますよ。当時の人たちがこのシリンダーヘッドを見てなんて言われるか。そのプレッシャーがあります。でも認めてもらったら、それほど嬉しいことはないですよね。
インタビュアー:
改めてこのプロジェクトで約50年前のパーツを見ることになったと思うのですが、技術者として、なにか感銘を受けたりしたのでしょうか。
松本:
当時、Z2/Z1はスーパースポーツだったわけだけど、いまのスーパースポーツと比べても基本的な「作り」はずーっと一貫して同じなのね。これが約50年前にすでに確立できていたことは本当に凄い。いまは水冷だったり、バルブの数が増えたりとか、軸位置が違うとかあるけど、基本的な機構は変わってない。

*2大槻幸雄:Z2/Z1の開発責任者。
*3稲村暁一:Z2/Z1のエンジン設計者。

西沢:
考え方が現代レベルと遜色ないんです、このエンジン。しかもシンプル。
松村:
それがいまでも動いているZが多い、と言う理由のひとつでしょうね。
戸邊:
やはり「Z」は偉大ですよ。

*2大槻幸雄:Z2/Z1の開発責任者。
*3稲村暁一:Z2/Z1のエンジン設計者。